Doricoでクロススタッフ(異なる声部を跨いだ連桁)を可能にするには!?

 扨て今回の話題は久々のDoricoについてでありますが、《クロススタッフ=異なる声部を跨いだ連桁》とは何ぞや!? と思われる方が居られるでしょうし、《大譜表ならフツーにできますけど!?》の様に受け止める方も居られるかと思います。ハイ、ピアノの様に同一プレーヤーによる物でしたらフツーにできます。それは判っているのです。

 然し乍ら、私のやりたいのは《異なるプレーヤー間での譜表を跨いだ連桁》を実現させたいのであります。例えば、サンプラー1、サンプラー2、サンプラー3という3つのプレーヤーを中括弧でグルーピングさせたとしましょう。それで譜表を跨いだ連桁が可能となるのか!? というとNGなのがDoricoであります。

 それはなぜか!? Doricoでは、《プレーヤーを同一のまま声部を3つ増やす》という概念で設計しないと今回の様な譜表を跨いだ連桁は実現できないという仕様であるので、これはブログ記事にしておくべきだろうと思い本記事を書く事にしたのです。

 よもやFinaleの頃では、こんな事で悩む事もなかった設定なのですが、この設定(☜制約)がある為に本格的な作業へと移行できないのは非常にもどかしく、脳内には描きたい譜面(ふづら)が充溢しているにも拘らず不慣れなソフトのせいでなかなか作業に移れないのは実に忸怩たる思いで手をあぐねてしまう訳で、この遣り所の無いストレスと怒りをせめて《多くの人々に知っていただく為にも》と思い記事にした訳であります。

 私の場合、音が出なくても一切構わないのですね。譜面さえイメージ通りに作れさえすれば。これはFinaleの頃も全く同様なので、NotePerformerの恩恵により方々が賑やかになっている時でも、私は音源部など全く頓着する事なく楽譜をコツコツと編集していた物です。

 使い手の側が柔軟になる必要があるのでしょうか!? 音が出なければ成立しない楽譜など、本から声が出なければ存在し得ない様なモノではないか!?と私はついつい懐疑的に感じてしまう質なのでありますが、最近の社会では私の様な考えは保守的なのでしょうかね!?

 いやあ、それにしてもDoricoが私にとって使いづらいのは今に始まった事ではないのですが、譜表を跨ぐ連桁をマニュアルに例示しているにしても、それが大譜表前提だけで語るのではなく、《異なるプレイヤーで連桁のみ共有したいクロススタッフを作る事位フツーにあんだろ!?》と思ってしまう訳ですが、まあ、マニュアルの方もあちこち不備があるDoricoの事ですからあまり多くの期待を寄せてはコチラが疲弊してしまうので、嘆息し乍らアップデートの進捗具合などを傍観しているという私でございます。

 まあ何はともあれ、クロススタッフ実現の為の策というものをしっかりと表しておきたいのですが、Finaleを使っていた時にクロススタッフで達成感のある楽譜を実現できたのは、YMOの「Simoon」のイントロにある1拍12連符が連続する多様な音の分布を表した時だったでしょうか。




 私の場合、状況によっては打楽器や環境音の基本音に随伴する部分音も採譜したりする事が多いので、こうした状況では一つの譜表で多くの音を散りばめるのは不向きなのですね。

 部分音自体とて自然倍音列のみに従っている訳ではなく固有音や他の非整数次倍音なども含んでの部分音ですので、オクターヴ内に凝集するどころか微分音単位でのオルタード・ユニゾンを書かざるを得なくなってしまうので、Finaleだとトコトン手を焼く事になる訳です。

 Doricoではオルタード・ユニゾンは、使用者が符幹を新たに設計して書く必要などなく簡単に行えるものですが、それでも同一譜表内に何音も凝集して散りばめる事は可能であれば避けたいので、段数を増やしてでも1音=1譜表(段)にして示したい訳ですね。

 扨て、Doricoでの編集画面を例に挙げ乍ら語って行くとしますが、先述の様に、3つの譜表が欲しい時にプレーヤーを [サンプラー1、サンプラー2、サンプラー3] という風に追加して行ってしまうとクロススタッフが実現できなくなるので、まずは次の様に [サンプラー1] を1つだけ追加して行く必要があります。

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 次に、多くの場合はここで躓いてしまう訳ですが、[サンプラー1] を追加したらプレーヤーのリスト右側の《右クリック》して次の様なメニューを出す必要があります。

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 上掲メニューの赤枠で囲っている部分 [インストゥルメントをプレーヤーに追加] を選択して行く事が必要な手順の流れとなります。

 つまり、今回の例では3つの譜表を必要とするので、2回 [インストゥルメントをプレーヤーに追加] をクリックする必要があるという事になります。

 そうすると、次の様にプレーヤーは [Sampler1, Sampler 2 & Sampler 3] という風に3つのパートが加わっている訳ですが、肝心の楽譜を見れば、単に譜表は1段だけとなってしまっています。この状況を変える為に更なる手順を踏む必要があります。

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 プレーヤーの [サンプラー1] のパートだけで好いので、こちらの右側を右クリックして次の様な赤枠で囲ったメニュー [インストゥルメントの定義を編集] を選択します。

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 そうすると、次の様に編集項目が沢山現れますが、この中で必要な設定な取り敢えずは赤枠で囲った3つの部分です。

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〔譜表〕メニューの中の [譜表の数] を「3」
〔大括弧のスパン〕の数値を「3」
〔移調レイアウトの音部記号〕を、今回私が必要なのは 'Treble Clef 8 below' なので、3つ共に設定


という編集が必要になるという訳です。

 仮に、上記の [譜表の数] を「3」にしたままで〔大括弧のスパン〕の数値を「2」とやってしまうと、上2つだけが括弧で括られてしまう様になってしまうので気を付けましょう。

 そうして、取り敢えず設定しておくのは、〔レイアウトオプション〕から〔音符のスペーシング〕を選択すると、[譜表間の連桁のスペーシングを均一化] という項目にチェックを入れておいた方が無難であろうかと思います。

 これは、現状のPDFマニュアルとの整合性が取れていない部分なので注意を要するのですが、マニュアルの方で謳われている所の「オプティカル連桁」の事を意味しています。

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 要は、譜表を跨ぐ時に連桁本体が《中央配置》となっている状態の時の《譜表を跨ぐ時の下向きの符尾と上向きの符尾の間隔が不揃いになってしまうのを自動的に整えてくれる機能》であり、Finaleでは相当な作業工数を要したのでありますす。

 作業工数を要する物でありましたが、Doricoではそれを難なく扱える様になった物の2024年10月から整合性の取れない日本語化となってしまい不都合を生じています。

 Dorico 5の2024年9月のバージョンまでは正常マニュアルとアプリ内メニューの文言とは統一性が図られていたのですが、Dorico 5の2024年10月のバージョンからメニュー内に例示されていた譜例は消え、文言もマニュアルでは「オプティカル」が従前のままなのに、メニュー内ではオプティカルという呼び方は消えて [譜表間の連桁のスペーシングを均一化] という変更されてしまい、指摘しているにも拘らず今猶改善されていない非常に愚かな部分であります。

 指摘しても直らないのですから、糠に釘。直す気などサラサラ無いのでしょう。日本語スタッフからのエスカレーションが効果的に機能していないと思われる側面のひとつでもあります。

 扨て、オプティカル連桁が有効となった譜表を跨ぐクロススタッフの連桁の中央配置では、次の様になります。

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 唯、私としては連桁は譜表の最上段のみ現れ、上向き連桁に統一するという事を最終目的としたいのですが、いつでも気が向いてやり直しが効いて譜面(ふづら)が整う様にオプティカル連桁を有効にしている訳です。

 私がクロススタッフで参考にしたいのはバーバラ・コルブの「Appello」なのですが、こちらは無拍子・小節線なしでのピアノ曲なので「大譜表」であるに過ぎないので、Doricoではごく普通にピアノの大譜表で設定してしまえば今回の様な煩わしい設定など必要はないのでありますが、「譜表を跨ぐ」という部分はとても参考になるので私は本作品を常に念頭に置いているという訳です。




 では、連桁を譜表の最上段での上向き連桁で表示したい場合、中央配置されていた連桁をどうすれば好いのか!? と言うと、任意の音符を選択して右クリックをして〔符尾〕メニューにある〔符尾を強制的に下向き〕を選択すれば好いのです。

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 斯様にして次の様に、ロ音の本位音、およびロ音近傍の微分音変化音などの状況をクロススタッフで反映させれば、1段でオルタード・ユニゾンが仰々しく表されるよりもシンプルに図示する事ができるという訳です。

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 尚、調号の特殊配置はFinaleよりも圧倒的にDoricoの方がやりやすいと思いますが、この譜例では、バルトークの副長の注意喚起のスタイルを真似ながら先蹤の異化として示しております。クロススタッフの有り難さというのをこうした譜例でお判りいただけるかと。


 加えて、この機会にFinaleとDoricoの音符の方向表記の違いを語っておく事にします。Finaleでは符頭側の方向で「上向き/下向き」を決定していたのでありますが、Doricoでは《連桁(符尾)側》の方向で決定されます。

Finale
符頭側の向きを基準に「上向き」「下向き」と呼ぶ
つまり、stem(符尾)の根元=符頭側がどちらにあるかで名称が決まる

例:
符尾が上で連桁が上にある → Finale では 「上向き」
符尾が下で連桁が下にある → Finale では 「下向き」


Dorico
符尾+連桁の実際の位置方向で「上」「下」を判断する
つまり、beam(連桁)がどちら側にあるかで名称が決まる

例:
連桁が五線の上側 → Dorico では “Beam Up”
連桁が下側 → Dorico では “Beam Down”

 Finaleは “stem direction” に名称を合わせており、Dorico は “beam placement” を基準に名称をつけている事に起因する為です。

 無論、Finaleでも1つの譜表内で複声部を表す際には、下側/上側という風に声部を読み分ける事で、《符尾側》の方向のルールは変わるのでありますが、この辺は「不文律」の様に私は体得してしまっているので、Doricoを扱う時には細心の注意を払って呼び分ける必要があり、実は本記事も初稿時とは異なりDoricoの説明文を訂正しております。

 という訳で、FinaleとDoricoとの差異をあらためて知っておいていただけると助かります。