
本曲に於けるマーカスのベース・ソロで特徴的なのは、ミュートロン(☜オートワウ)をふんだんに使って、コーラスも併用するという物です。それらは指弾き&スラップの2つを駆使して奏されるもので、普段のマーカスのソロとなるとスラップの方にウェイトを占めるものですが、指弾きも存分に堪能できる内容になっているのが魅力のひとつではなかろうかと思います。
扨て、本曲のベース・ソロの尺は4/4拍子にて64小節という長さであります。最後の8小節はラルフ・マクドナルトのパーカス・ソロへ流す為にシンプルなブリッジのリフを挟んでソロが終了するというもので、実質的なソロとしては56小節を堪能する事ができる訳であり、今回、ベース・ソロの64小節全てを採譜したという訳です。
ベース・ソロは楽曲冒頭から小節をカウントをすると65小節目でソロが開始するという事になる為、譜例の方では小節番号を「65」小節目から始まる様に記されております。その様な事から、今回のベース・ソロの解説は65小節目から順を追って説明する事になります。
また、マーカスの特徴が更にもうひとつ現れているのが音色面であるのですが、彼の場合、ライン信号とアンプのオフマイク信号の2系統をミックスして特有のギラついた音を聴かせる訳ですが、この特徴的な音はアンプとラインとの間で生ずる僅かな「位相差(遅延)」で生ずる物で、《オールパス・フィルター》を巧みに利用して位相を合わせている賜物であるという事を忘れてはいけない部分です。
DAW環境で斯様な状況を再現するとなると、少なくとも2系統に信号をパラレル(並列)に分けて、ライン用とアンプ用の信号として編集する必要があります。私はアンプ用の信号にIK MultimediaのAmplitubeを使用しておりますが、その後段にairwindowsの「PhaseNudge」を使用してオールパス・フィルター特有のカーブを混ぜて反映させております。
念の為に語っておきますが、今回のデモに用いた音源は、IK MultimediaのMODO BASS 2であります。ドラムはBFD3でありますが、肝心のベースでもうひとつ忘れてはならないセッティングが、Bus送りのリバーブです。
このリバーブはライヴを再現するに当たって必要な残響を狙っての事なのですが、特にミュートロンが効いている時の音価が短い音というのはオリジナルの方でも「音色形成」的な側面でも際立っているので、プレート・リバーブのローカットとプリディレイは123ミリ秒を採ってM/S処理を施してリバーブ音をサイドに配して聴かせています。
採譜に用いたのはDoricoですが、今回の譜例動画で顕著なのはタブ譜を用いているという所です。通常の私が採譜する譜例動画でタブ譜を用いるという事は殆ど無い事なのでありますが、押弦する位置と奏する弦を明示する必要があるのでタブ譜を併存させるという判断に至りました。
また、Doricoで書き出したPDFファイルを、先般無料になって巷間を賑わせたソフトAffinityにインポートして、ドキュメント設定を「292.8×164.7(㎜)」にして動画用の画像を生成しています。Doricoで出力したPDFをインポートするだけで各ページ毎のドキュメントとして読み込まれるので、作業工数としてはこれだけでもかなり軽減される事となりました。
1つのドキュメントとして、《DTP》《ベクター》《フォトレタッチ》として並列して編集できるのは非常に効率的で、作業は頗る捗る事となりました。
では、茲から本題の楽曲解説に移る事としますが、楽曲65小節目であるベース・ソロの1小節目は、まさかのミュートロンを用いて指弾きから始まります。ミュートロンのセッティングとしては下記の図版を参考にしていただければと思いますが、最大限に注意を払うべきは「BP」の設定でのオートワウという所です。

加えて、ミュートロンに送るゲイン量でエフェクトの効きは異なって来るので、その辺りの絶妙なポイントというのは各人各様の設定にならざるを得ません。とはいえ、上掲図版の様な設定を施せば概ね大局は掴めるのではなかろうかと思います。
そういう訳で茲から65小節目=ベース・ソロ冒頭の解説をして行こうと思います。譜例の注記にある通り、ミュートロンを噛ませた指弾きであるというのが特徴であり、下主音 [f] から入るというのも洒落た装飾(☜装飾音符の意味ではない)だと思います。
また、執拗に16分の裏で奏される各音にスタッカートを充てておりますが、明らかに通常の16分音符よりも音価が短いプレイでしょう、という訳で、このテンポでも音価の短い16分音符には容赦なく明示しています。私の譜例というのは《簡略化してこそ全て》という類の物ではないので、読み手が弾き手となる時の一定以上の私感を忍ばせて演奏をする為の書法とは全く異なる物ですので、本曲に限らず私の採譜する曲というのはその辺りはきちんと区別して読んでもらいたいと思います。
66小節目の短前打音(☜装飾音符)が [fis] からなのはオリジナル通りの演奏を採譜しています。ところがデモの方は複短前打音として [f - fis] という風にして [g] に対してダブルクロマティックを忍ばせて弾かれております。これは私自身の好みを反映させたものなので、どうかご寛恕願いたいのですが、この辺りの好みを反映させてしまうそれは、先述した《一定以上の私感を忍ばせて演奏をする為の書法とは全く異なる》と言っておいてコレか!? と驚かれてしまうかもしれませんが、一応その辺の採譜者と制作者としてのプライオリティーは保たせて遣って頂きたいな、と。
尚、この複短前打音となる私の「創作」は、後のベース・ソロ6小節目=70小節目に於てもデモは同様ですので、譜面はオリジナルを踏襲してはいるものの、デモの音が創作ですので微妙に異なる事となるのでご注意ください。
一応、私自身「ベースの日」のアップロードを目指して楽しみ乍ら採譜をしていますので、その辺りの私感の忍ばせは許容していただきたいかな、と。オリジナルとは異なる所があればそういう時は必ず明示しますので、あらためてご承知おきください。
話を戻して、同小節4拍目での [e - f - fis -g] というフレーズでは一番最後の [g] 音以外はスタッカートであるという所は注意が必要なのですが、習熟に甘い人は《開放弦でのスタッカート》の方策を知らない為か、無造作に開放弦を弾いてしまうきらいがあります。
開放弦では単に音をレガートで弾くのではなく、スタッカートおよびスタッカーティシモを身に付ける必要があります。ツーフィンガー奏法の場合、人差し指で開放弦を弾き始めたらその直後に弾いていない指(中指)が人差し指に随伴する様にしてミュートをさせる様に動かさなくてはなりません。
勿論、順次中指で弾き続ける時は、そのミュートとして使った中指が次の動作へと移り、中指で弦を弾いた直後には、弾かなかった指(人差し指)を使って随伴させる様に動かしてミュートする様にするのです。
隣接弦での習得は難しくありませんが、弦を跨いだ運指は少々難度が上がって来ます。私の場合は、フィンガーレストなどを使用せずに親指をベースのボディに押し付けてフレキシブルに移動させる手法を採るのですが、その際、親指の立て方や手首を使った「立体的な動作」で親指でミュートをできる様に立体的に動かして4弦または低音弦(多弦ベースでの低音側)をミュートさせたりしています。
こうしたフレキシブルな親指の置き方はエイブラハム・ラボリエル御大を参考にしたものなのですが、いずれにしても、開放弦を無頓着に弾かない事の重要性が本曲にはありますので、その辺りに注意を払って弾いて欲しいと思います。
67小節目も冒頭と同様ですが、4拍目最後の [c] 音出現には注意していただきたい所です。ほんの少しだけ変化の揺さぶりを掛けているのですが、オリジナルの方の音価は結構短く、音高が不明瞭に聴こえる可能性もあります。とはいえ、茲は明らかに [c] 音であるという事を明確にしておきたいと思います。過去に、私の周囲では冒頭と同様の繰り返しで弾く者が非常に多く、あらためて釘を刺しておきたい部分であるので、口煩いかもしれませんがその辺りはご容赦願いたいと思います。
扨て、小節を進めての72小節目4拍目ですが、先行する3音の16分音符はトライトーン・サブスティテューションのアプローチである事が伺えます。基本的にこのソロはGのメジャー・ブルースですから属音=Ⅴ度(ドミナント)は自ずと [d] 音の位置になる訳です。
一応はGの一発系ではあるものの、ドミナント [d] とその裏(=三全音代理)の [as] の両義性を採って [g - as - as] と奏して [d] に繋げている訳ですね。これは [as] を聴き取れていない人がこれまでも多かった箇所なので、要注意ポイントのひとつであろうかと思います。
更に、同箇所では直後に [d - des] という32部音符が出て来ます。これは先行音にマルカートを充ててスラーを配しているものの、これがプリング・オフなのかスライドなのかは明示しておりません。私の解釈では「スライド」です。そうして73小節目の5フレットの押弦へ繋げているのであろうと思います。
唯、80年代のマーカスは G弦が弦落ち(☜フレットの両端にある「キワ」の面取りが大き過ぎて弦がこぼれ落ちてしまう事)させてしまう運指って結構あったりするのですね。そうした演奏上に於ける危険性を考慮すると、G弦でのプリング・オフは極力避けるのではないかな!? と私は推測するのであります。
余談ではありますが、マーカスの使用するフェンダーの77年製JBのフレットはリフレットしているかどうかまでは定かではありませんが、フレットの山は平た目で山の大きなタイプの方がマーカス・サウンドには貢献してくれます。グリッサンド/スライド時の音程感が明瞭になり、曖昧な急滑奏になりにくいという反面、押弦時の摩擦抵抗力が増してチョーキングがやりづらくなるのですが、それでも長二度アップのチョーキングを聴かせていた訳です。
そうして、最後の [des] 音というのは原調 [g] から見た属音のブルー五度を逸音として置いたアプローチなのでありましょう。この逸音が有るか無いかでフレーズの彩りは全く異なるので、これを聴き取れずに奏する事をしないのは非常に勿体無いと思います。
73・74小節目で特徴的なのは、各小節4拍目で生じている複後打音であります。いずれもダブルクロマティック上昇という風にスライドさせて行けば良いのですが、次小節拍頭に目掛けて32分音符の様に短い音価で繋げるよりかは、拍節感を曖昧にした後打音で示した方がオリジナルにより近いであろうと思い複後打音で表記する事にしました。Doricoは後打音の記譜が非常に容易である事もこうした表記を選択したひとつの要因でもあります。
75小節目は特に述べておく事はないので割愛しますが、76小節目1拍目では「付点8分5連」が現れます。これは、《付点八分の歴時を5等分》するという事になるので、仮に四分音符=960という分解能であるとすると《720を5等分》するという事になり、1単位の歴時は「144」ティックという事になります。その上で《720が [2:1:2] の比となる拍節構造》という事になっているという事になります。
そうした拍節構造をティック数で見れば付点八分音符は [288:142:288] という風に分割された構造となっており、その後に16分音符1つが充填されるという状況になっているという訳です。
本曲は次に示す様に、
・付点8分5連
・頭抜き7連符
・付点16分
・32分休符
という拍節構造が顕著に現れる曲であります。更には「アクサク」として示される躓く様なは高リズムとして32分休符が顕著に現れる物でもあり看過できないプレイの宝庫でもあります。
マーカス・ミラーとなるとついつい付点八分を聴かせた拍節構造や16分音符の巧みなフレージングの中に装飾的に用いられる6連および32分音符が特徴的に扱われますが、なかなかどうして、もっと細やかなプレイを鏤めている事はもっと広く知られて欲しい所でもあります。ですので、後にあらためて詳述しますので先の拍節構造はあらためて念頭に置いていて欲しいと思います。
扨て、77小節目2拍目ではチョーキング・アップ&ダウンの過程で微分音を配しております。処が、私の編集ミスでタブ譜側ではDoricoのエラー表示がそのままになってしまっており、当該微分音部分の押弦位置が「?」で示されてしまっております。
正しいフレット押弦位置は「5」で示されるべきでありますが、Dorico上での編集が判らないまま、PDF出力後にIllustratorにでもインポートして編集しようとしていた所に巷間を賑わせている《Affinity無料》というニュースが飛び込んで来たのでAffinityで編集してみよう、という事がすっかり後回しになったまま編集すら忘れてしまい、タブ譜での誤表記がそのままになってしまったという訳です。この辺りはご注意ください。
処で、微分音として演奏されるべきチョーキングのアップ量は《+70セント》が必要とされるもので、これがオリジナルを踏襲した変化量という事になります。
70セントというのはほぼ「1単位三分音」でもある為、18EDOで用いられる類の表記で矢印が変化記号の付記される形の表記をDoricoで微分音をカスタマイズして作成したものの、遉にフレットでは有り得ない数字に置換される訳ではない所に加え、私自身が通常タブ譜を用いないという事も手伝って編集がお座なりとなってしまったという訳です。
Finaleではタブ譜上の数字でも便宜的な数字を配する事が可能だったのですが、Doricoではどうにもこうにも上手くいかず、後回しにしたまま編集を忘れてしまったという訳です。
78小節目1拍目は、頭抜きの7連符であるという所が要注意です。このベース・ソロで最も難しい箇所ではなかろうかと思います。
マーカス・ツーフィンガー・スタイルというのはスラップよりも多様なリズムやフレージングが見られます。特に、後年の渡辺香津美のアルバム『Mobo』収録での「Half Blood」はマーカスの良さが際立っているプレイを耳にする事が出来るでしょう。
また、同小節2拍目は7連符直後のスコッチ・スナップという逆付点であり、プリング・オフを伴わせなくてはならないのでなかなか移行が難しいとなる箇所でもあります。そういう意味でも、本小節での1〜2拍目はベース・ソロの鬼門とも言える部分でもあろうかと思います。
79小節目の1・3拍目では、それぞれ過程でダブルクロマティックをスライドで奏する必要があるのですが、重要なのはスライドの急滑奏である「急」ばかりに注力してしまって拍節感が無くなってしまう様なプレイになるのを避けなくてはならないという所です。
畢竟するに、スライドでの拍節感を曖昧にせずに明示化させるには押弦の確かさという所に注力する必要があるという事になります。
例えば、あるフレットを押弦した位置から完全五度上昇させたスライドを試みようとした場合、過程の滑奏を拍節感を保たせて奏するというのはかなり難しいと言えるでしょう。完全五度上昇させた先は「7音目」である訳ですから、その「着地点」が拍の強勢であったとすれば「6連符」でスライドさせて来たのかというとそう簡単な事ではありません。
フレット間隔は物理的に等間隔ではなく対数に則っている訳ですから、スライドの速度を対数での加速度を対応させる様に物理法則を頭で考えて奏するベーシストはまず居ないかと思います。仮にその様なプレイを心掛けたとしても、出て来る音は等分割に近似しているだけに過ぎません。
スライドでの拍節感を明示する為には、対数に埋没される事のない細やかな運指と腕の漸次変化が求められる訳です。
それを私がスポーツに喩えるとするならば、サッカーのドリブルに似る所があろうかと感じているのですが、ドリブルというものはボールのスピードに足の動きを合わせていたのではドリブルにはならず、ボールよりも速く足を動かしつつ、ボールの速度は逐次変化している所で足の動きの速さも均一化してはならない訳です。
単にスライドの速度を一定にしてしまうだけでは拍節感を出すスライドは無理になってしまうという事でもある訳です。
もっとも、本ベース・ソロ後半のスライド多用では拍節感よりも「音高変化」の挙動が重要になって来る訳で、そういう意味でも乙張りの利いたスライドというプレイに幅のある演奏を堪能できるのが本曲の醍醐味であろうかとも思える訳ですが、少なくとも、本箇所でのスライドは単に無造作に楽譜上で「s.」という注記を充てているのではなく、《拍節感の明示》という示唆があっての事なので、そこに注意を払って欲しいという意図がある物なのです。
80小節目。本小節2・4拍目では所謂「ハネた」16分音符が現れます。このスウィング感のある16分音符が混ざる事で、本ソロは一層乙張りの利いた物になるのですが、こうした拍節が所々で現れる事で他の5連符、付点8分5連、7連符などの聴き取りを一層難しくする事にもなるのですが、マーカスは基本のリズムの揺れが極めて少ないので、これらの微妙な違いが埋没される事なく明確に現れるのが特徴でもあります。
そういう意味では、微妙な拍節の聴き取りは確かに難しい側面があろうとも、マーカスであるからこそ比較的聴き取りやすいとも言えるでしょう。
81・82小節目で顕著なのは「付点16分音符」による [3:5] の拍節構造となるプレイでありましょう。少々ずんぐりとした逆付点フレーズの様にも耳にする事ができますが、明確に付点16分音符を実行する所に《俺には32分も余裕で見渡している》と言わんばかりのプレイに余裕すら感じ取る事ができます。
唯単に速さを追求して歴時の短い音を充填するタイプのベーシストならば、マーカスの他にも幾らでも居ますが、こうしたフレーズの機微を駆使するそれには、当時の若さから勘案しても多くの大物達に重用された理由が判ります。
83小節目では漸強松葉(クレッシェンド)が顕著であるので言わずもがなであろうと思いますが、音の実際の強弱よりもミュートロンのフィルターの効き具合で変化が感じ取れるので、音量面ではそれほど大きな変化が無い様に思われるかもしれません。
84小節目2拍目で生ずるスライドは、ほぼ複後打音の様なニュアンスで奏する必要があり、[des] 音というブルー五度も無くてはならないニュアンスですので、この辺りの「唄心」というのはあらためて称賛すべきフレージングだと思います。
同小節で注意をしていただきたいのは4拍目でのハンマリング部分に付記している指番号ですが、これは鍵盤に則った指番号を充ててしまっており、ギターの運指用の指番号ではないままにしてしまっております。つまり、指番号はそれぞれ「1」を減じた番号であるので、[2・1] という順に付されるというのが正しい物となります。
この指番号を充てている意図は、先行で現れるハンマリングは [g - a] にかけて、[中指─小指] として奏されるべき運指であります。茲で小指を押弦した時点でグリップ・ポジションを変える必要があるのですが、小指を押弦し乍ら押弦している小指の「キワ」まで人差し指を近付けて同一フレットを人差し指で押弦するという必要がある、という意味で指番号を充てているのです。スライドでは過程の音が辷り込んで来てしまうのですが、それを避け乍ら運指に注意を払う必要がある為、能くもまあ、これほど細かな事をライヴで披露した物だとあらためて感心頻りであります。
85小節目のシンコペーション後の弱勢 [g] 音は、運指からすればG弦開放にすれば非常に楽なのでしょうが、音がG弦よりは明らかに太さがあります。先のスライドを兼ねたハンマリング後の反動でストレッチしやすい運指の流れともなるであろうという事もあってD弦5フレットという風に私は解釈しております。
運指については一義的な方策ばかりとはならないので本人と全く同一のプレイを目指さない限り、自身のやり易い方法でも音にする事はできます。少なくとも「音」そのものの採譜に誤りは無い事は保証しますので、運指面は各自色々研究されてみるのも宜しいかと思います。
86小節目4拍目での32分音符の箇所のスライドは、32分音符という短い歴時とも雖も拍節感のあるスライドとして奏して欲しいという部分です。これは私の願望なのでもなく、オリジナルがそういう演奏である訳ですから、それほどまでに拍節感が明瞭であるという事をあらためて理解して欲しい箇所なのでもあります。
87小節目。2フィンガーのフレージングの高潮点とも言える箇所であります。特に同小節4拍目での5連符は注意が必要でして、決して「16分音符×2・16分3連」の組み合わせの拍節でないという所も重要です。
加えてこの5連符の3音目は、D弦開放が介在する事により直後のA・E弦へのダウンストロークでかき鳴らす様に奏されていると私は解釈しております。開放弦がミュートであるという所も重要ですので、その辺りも注意を払って欲しい部分です。
88小節目2拍目でツーフィンガーのプレイは終わり、同小節3拍目からスラップへ切り替わります。この際、ミュートロンはまだ効いているというのも特徴的なのでありますが、茲までミュートロンに拘ったマーカスのスラップのプレイとなると、後年のデヴィッド・サンボーンのアルバム『Upfront』収録の「Ramblin'」まで待たねばならなくなります。
余談ではありますが、「Ramblin'」はミュートロンの前段にモノコーラスを配置している様な音なので、本曲「Instant Relief」の接続順「ミュートロン -> モノコーラス」とは少々異なる所が注意点と言えるでしょう。
尚、同小節の「Slap→」注記の破線が若干上側にズレてしまってレイアウトが崩れてしまっているのは御寛恕願いたく存じます。4小節後にもレイアウト面で御寛恕願いたい所があるのですけれどもね(笑)。
因みに、同小節4拍目最後の [a] 音は、実質的に左手のプラッキングです。以下、同様の左手プラックは「L」を示して行こうと思いますが、譜例では「L」を充てなかったので左手プラックが判りにくいかと思います。ですので、こちらの解説文を併せて読んでいただければと思います。
また、スラップで顕著となる本ソロでのスライドに於けるスライドの帰着点となる音には五線の方では《符頭なし》タブ譜の方では《括弧つき》で表しております。五線の符頭なしは音高が一瞬不明瞭な形に映ってしまいますが、その辺りはあらためてご注意をいただきたいと思います。
本ソロのスラップに転じてからのプレイで「遉」と思わせるのは、小節頭を明示させずに「アウフタクト」つまり弱起のフレーズに変化させる事で、楽曲(ソロ)の楽式的な側面も誇張されるので、ソロとしての形式が非常に多彩になる点であります。単なるソロのプレイでこうして合う服タクトの感じを忍ばせるのはなかなか見受けられない「唄心」であろうかと思われます。
89小節目。1拍目最後の [a] 音が「L」です。3拍目にはD弦開放のミュートも現れますが、これは左手プラックではない様です。
90小節目2・3拍目にかけてのスライドは「長九度」の音程となるので、1オクターヴよりも広いというのが特徴的でもあります。その後に1フレットという物理的な押弦位置の最遠部にまでフレージングを広げているのはジャコの影響でもありましょう。尚、4拍目最後の [a] 音は左手プラックではない様です。
91小節目の3拍目は、譜例通り [g - g - f] が正確なのでありますが、これまで私の周囲で耳にして来たコピー物では [g - g - g] と耳にしてしまっている人が圧倒的多数なので注意をされたし。
92小節目は「askak」と注記している様に、32分休符を織り交ぜる事で跛行感が演出されている訳ですが、私は当初、コーラスのエフェクターのスイッチを入れる迄に足元を探ってしまって、それでリズムがヨレたのではないか!? と思っていたのです。とはいえ、その32分休符がかなり正確である為、リカバリーしたとしてもそれならば16分に均す(32分休符を更にひとつ分待って)様にしたのではないか!? という風に考える訳です。
そうなると、これはもう態とやっているのであろうと最終的に解釈した訳です。後述する他の箇所でも跛行リズムとしての箇所がありますし。
本曲のテンポは四分音符=120前後なのでありますが、このテンポの倍、更にはbpm300台のテンポであるアラ・ブレーヴェなど、ジャズ演奏では日常茶飯事であります。そういう意味では、本曲の32分休符など16分休符の様に感じ取っているでしょうから、習熟の甘い者ほど単なるズレにしか聴こえず、習熟が増す程に斯様な拍節として聴き取れる物ではないかと実感しております。
また、本小節での4拍目に注記される「Chorus ON」は、この「ON」の直後に左矢印がレイアウトされるのが本来意図した物なのですが、レイアウトがズレてしまい音符の右側に付記されてしまっております。これについてはご容赦願いたいと思います。
93小節目は1拍目の [a] 音が「L」です。
94小節目2拍目プルからのスライドは完全五度上、3拍目のスライドは短七度下行になります。4拍目の [a] 音は「L」となります。
95小節目1拍目の [d] 音はミュートです。加えて「L」で、ミュートが強く出ているという訳ですが、2拍目ケツの [b] 音は「L」ではなくきちんと実奏という事で乙張りを付けているので注意をする必要があろうかと思います。
96小節目2拍目プルからのスライドは三全音上行です。そうして3拍目のスライドは長七度下行という事になり、ミュートロンは茲で解除という事になります。同小節4拍目拍頭の [d] 音はややミュート気味で奏された方が宜しいでしょう。
97小節目1拍目拍頭の [g] 音は「L」です。マーカスのスラップ特有の《L→プル→サムピング→プル》という手順で「イナカッペ!」とも呼ばれる(笑)フレーズ運びの試運転と予兆とも言える音であると言えるでしょう。

98小節目でのスライドも夫々は1オクターヴ未満の上行/下行なので注意が必要です。3拍目拍頭はスタッカートよりも短いスタッカーティシモなので注意をしたい所です。譜例の休符の充填での視覚的な煩わしさを回避した結果です。また、4拍目の2つのプルはサムピング [g] を掛留させての短二度下行する反進行を採る物なので是亦注意が必要です。
99小節目でのスライドも前小節同様に1オクターヴ未満の音程幅ですので注意をしていただきたい所です。
100小節目でのスライド量は打って変わって1オクターヴ以上になるのですが、所謂「イナカッペ!」が直後に現れるので、その前振りみたいな物なのでしょう。同小節3・4拍目が「イナカッペ!」となり、4拍目最後の [g] 音が「L」となります。
101小節目3拍目の5連符は、連符鉤の後ろの括りが前のめりに描かれてしまっているので注意が必要です(Doricoのスペーシング確定前に連符鉤を編集してしまった事によるトラブル)。
同小節3拍目の5連符で括られずに連桁が掛かっている先行の16分音符と16分休符は通常の音符と休符です。5連符は [32分音符×2・32分休符・32分音符] というのが意図した括りなので、注意してください。
尚、同小節2拍目3つ目の16分音符と、3拍目の5連符の拍頭の夫々が「L」です。同様に、102・103小節目での「L」の位置も全く同様の位置に現れる事となります。
103小節目3拍目での [1:3:1] の拍節構造となる5連符は注意が必要で、[3] の音価を一番大きく採る事によって前後の [1] の音価は、それこそ前打音&後打音の様な振る舞いの様に解釈しても可能であります。その方がアプローチしやすかろうとも思います。
104小節目は、1拍目の16分音符4音目と4拍目の16分音符3音目が「L」となります。
105小節目1拍目のA弦13フレットは間違いで、E弦18フレットの異名同音から短七度下行のスライドという事です。その直後の前打音から三全音上行という一連の流れでのスライドとなります。また、4拍目の3つの [g] 音は、1つ目の [g] 音が「L」となります。
106小節目1拍目拍頭が「L」ですが、ミュートの左手プラックではなく実音を出してスライド上行という風に持って行きます。他とはほんの少しだけ違う手順でのスライド開始ですのでご注意を。
また、同小節2拍目は「付点8分5連」である所にご注意ください。また、連符鉤の「閉じ」が寸足らずになってしまっている為に5連符の拍節構造が判りづらいですが、5連符は [2:1:2] という拍節構造になっております。そうして2拍目最後に16分音符が充填されているという訳です。
107小節目1・2拍目の夫々の拍頭は「L」です。
108小節目1拍目の最後の [g] 音は「L」です。
109小節目2拍目拍頭は「L」です。また、同小節3拍目拍頭も実は左手プラックです。敢えて表記はしませんでしたが、E弦ミュートとA弦3フレットの限りなくミュートに近い実音が実際には鳴っており、そのA弦だけを残してハンマリングに繋げているという状態です。
重音として書いた時のハンマリングの行き先はE弦は逸行音状態となる訳ですから、表記の上で唯それだけの為に複声部にしてしまうのももどかしいという事もあって、この様に簡略化しました。
110小節目1拍目では付点16分休符を置いてのアクサクが現れます。次の拍頭も綺麗に出ている事からミスではないのでしょう。リカバリーが32分音符の歴時でこの様になるのは逆に難しい事でしょう。因みに、その2拍目の最後の [g] 音は「L」です。
101小節目の2・3拍目夫々の拍頭は「L」です。特に3拍目拍頭の左手プラックは重音を明示しておりませんが、E弦のミュートと合わせてA弦のミュート気味の実音がハンマリングとなっているという物です。
102小節目は1・2拍目の拍頭が「L」です。
扨て、113〜119小節目では、所謂「イナカッペ!」の頻発部でありまして、多くのそのスラップのそれは「半拍5連」が主体となっているフレージングであるのですが、Doricoのスペーシング確定前に私が連符鉤を編集してしまった物ですから、全ての音符が充填された時にはスペーシングが大幅に変わり、連符鉤の編集幅が追従しない事も手伝い、「ベースの日」の間にアップロードを急いだ私の確認不足も重なり、連符鉤の閉じ部分が寸足らずになってしまっているのはあらためて御寛恕願いたい所であります。
いずれにしても、この「イナカッペ!」の部分は、32分音符よりも速い歴時で奏されているのが特徴であります。この半拍5連はマーカス特有のスタイルですので、この機会に体得されて欲しいフレーズでもあります。
扨て、あらためて113小節目から語りますが、本小節の1拍目A弦5フレットで示してある [d] 音は「L」です。然し乍ら、実際には重音であり、E弦のミュートも入っておりますが、優勢に鳴っているのがA弦である訳です。
この手順は繰り返されるので同一の手順であり、約言すれば「イナカッペ!」の「ナ」の部分は必ず左手プラックだという事でもあります。
114小節目は113小節目とほぼ同様ですが、4拍目のみE弦が掛留して重音となってG弦のプルが現れる状態です。また、E弦の破線スラーというのは [f - g] という長二度(=2フレット)間を付点八分の歴時でスラーを演出する様にという意味合いなので、少なくともこの破線スラーの過程ではスラーの拍節感を殺して演出して欲しい訳です。
つまり、この破線スラーが意味する物は「音高」の差異だけを明確にして拍節感を殺すという意味合いで用いている物です。作者によっては全く逆の意味合いとして音高感を曖昧に拍節感を明確に、という意味で用いる事もあるのですが私の場合は前者での意味合い且つ多数派となる解釈で用いております。
115小節目の1拍目は、これまで先行して聴かせていた「イナカッペ!」のそれとは少し表情が変わり半拍7連を用いて表しておりますが、これは、それまでの半拍5連とは微妙にタイミングが異なるからです。以下に、四分音符の分解能=960ティックという前提で半拍7連の分布を数値化したタブ譜を示しておきますので確認してみて欲しいと思います。

116小節目は3拍目からのオクターヴ記号の部分は少々語っておかなくてはなりませんが、まず短前打音(=装飾音符)にアクセント記号が振られています。このアクセント記号は強弱を示しているのではなく「拍頭」を示す書法です。つまり、小節線のド頭(=強勢)という標榜すべき位置がそのアクセントの部分にあるという事を示しており、決して装飾音符の側を強く奏するという事を指示しているのではないのです。
また、短前打音からの完全四度上行のスライドというのも自ずとお判りいただけるかと思いますが、表記の小ささと「符頭なし」という書法で目立ちにくいのとは裏腹に、高い位置でのフレットの押弦がスライドから強制的に振動されている為にダイナミクスの大きさも際立ちます。これにより先の短前打音のアクセントが誤解されてしまう可能性を高めてしまうので、あらためて注意をしていただきたいと思います。
また、スライドで行き着いてからも更に1フレット高くスライドをさせて付点16分音符というアクサクを介在させてE弦ミュートのサムピングを奏しているという、上下運動の激しい部分でついついダイナミクスは「強」ばかりに注力してしまいそうですが、アクサクが入るのはそれを抑える為の演出なのであろうとも思えます。
117〜119小節目では、あらためて「イナカッペ!」が繰り返されるフレーズに回帰し、フレーズ自体もこれら3小節間は同様の状況となります。
120小節目1〜3拍目では、短六度音程の弦跳び運指でサムピング側はレガートでクロマティック下行を採るフレージングであります。1拍目のみプルもレガートで奏する必要があるという風に表記をしております。
そうしてスラップは終わり、パーカッションのソロのブリッジでマーカスは8小節間、ダブルクロマティック上行の指弾きフレーズで場を保たせたフレーズでソロを終えるという事になります。この指弾きでは譜例では明示していないものの、エフェクトであるモノコーラスはOFFですのでご注意のほどを。
斯様にして「Instant Relief」でのマーカス・ミラーのソロの全小節を解説して参りましたが、スラップ時のスライドの表記は、隷属となる音を符頭なしで示し乍らも音高の行方は変化音など併せて表記しているのでお判りとは思いますが、次の様な鍵盤楽器で能く見受けられる正当表記と混同されぬ様に注意していただきたい所です。

思えば、本曲に私が出会ったのはドラマーの友人が私の家にカセット・テープを持ち寄って麻雀をしていた事に端を発します。その友人は単にスティーヴ・ガッドのソロを耳にする事が出来るという事で入手をしていたらしいのですが、いくら当時がクロスオーバー・ブームの影響を受けた時代だったとは雖も通常ならばフュージョン関連など耳にしないにも拘らず、私も含め他の連中も《珍しいの聴いてんじゃねーか》という風に耳を傾けていたのでした。
ロック好きな者はDr.ジョンに驚き、私はマーカスのソロを初めて耳にする事になり《これ、マーカス・ミラーだろ!?(☜友人は名前すら知らず)こんなアルバム有ったんだ》と吃驚したという訳でした。
当時のガッドの名プレイと言えば、スティーリー・ダンの「Aja」ベン・シドランのアルバム『The Cats And The Hats』収録の「Seven Steps To Heaven」でのガッドは、本曲およびスティーリー・ダンの「Aja」に次いで耳にすべきマストな演奏であろうかと思われ、それらに追加される名プレイのひとつが本曲であったという訳です。
マーカス・ミラーのベース・ソロというのも、本曲を除けばマイルスの『The Man With The Horn』『We Want Miles』ほぼベース・ソロの様なリフ「Run For Cover」に手を伸ばさなくてはならない様な時の貴重なアルバムでもありました。40年以上の月日を超えて、今ではMODO BASSとプラグインで茲まで表現できる様になりました。あらためて元のプレイの良さを堪能していただければ之幸いです。
尚、譜例動画後半にてドラムをTR-909に置き換えたデモが流れますが、この意図は、機械的に画一的なビートでベースの拍節感を浮き彫りにする為に施したものであるので、誤解なきようご理解願いたいと思います。何も、嘗ての『NIGHT MUSIC』のテーマ曲冒頭のクラップ音を再現したいが為に作った訳ではありません。