鉄道踏切警報音の採譜 小田急線のバリエーション (3)

 思えば2019年の9月に、私はブログにて『鉄道マニヤに捧ぐ 首都圏主要鉄道会社の踏切音に使用される微分音』という記事を公開し、鉄道会社各社各様の異なる警報音の音高およびテンポを詳らかにしたものでありました。

https://tawagotosakonosamu.seesaa.net/article/2019-09-19.html

 音高とテンポの情報と比して《音価》はというと、視覚的に平易な状況を持たせたかったので音価については簡略化しているのでありましたが、私が最も声高に訴えかけていた事は世間に蔓延る一般的な音楽および環境音に溶け込まない様に配慮が為されているであろうと思われる各社各様の踏切警報音の音高および和音間の音程要素でありました。
 例えば、異なる2つの周波数同士での音程要素は、1音が複合音であろうと部分音(パーシャル)を無視した《純音》を念頭に置いた場合、音程要素としての音程は、実音同士の音程以外では結合差音でしか現れない事となります。

 品川界隈での京急の踏切警報音ですと3音による警報音があるので、実音としての3つの音の音程要素となると、仮にその踏切警報音を形成している音が [ド・レ・ミ] の3音だとした場合、各音が作る音程要素としては

[ド・レ]
[レ・ミ]
[ド・ミ]

が生ずるという事となります。

 理論的にはそれらの音程要素から幾つもの結合差音も導く事は可能なのですが、実音の絶対的な物理的音高の高さや音量の強さなどが相俟って差音が〈生ずる/生じない〉という状況は多々あり、必ずしも差音を生ずる訳でもないのが差音の存在を声高に語る事を難しくしてしまうものでもあります。

 少なくとも、踏切警報音というのは音程要素が少なく済む様にして和音数が決定され乍ら、世間一般で広く使用されている楽音の音律などになるべく溶け込まない様な配慮(※カーステやラジオで音楽に踏切の音が調和する様な状況を回避)が見られており、音程自体も通常の楽音ではありそうで無い音程を使用されているという事を述べていた訳であります。

 とはいえ、小田急線で最近よく耳にする電子音タイプの物は、先述の警報音とは一線を画す様にして《溶け込もう》としている音が能く使われる様に設置が進み、変化が起きている事を実感する様になりました。無論、私の居住する地域では、今回対象とする小田急線の踏切警報音を日常的に耳している訳ではないのでありますが、小田急線の踏切警報音が変わって来たという印象を抱く様になる事が増えたと感じているのであります。定点観測をしている訳ではないので、実際に設置が物理的に変化した踏切が多発しているのかどうかまでは知りませんが。

 兎にも角にも、小田急線の新たなる踏切警報音のそれが如何様にして《溶け込もう》としているのか、それについて縷々語って行こうかと思います。


 扨て、茲から本題に入るとしますが、今回YouTubeに譜例動画として挙げた「小田急踏切警報音(3)」としているのは、各社各様の譜例動画の他に、過去にも小田急線の踏切警報音を挙げた事があったからです。

 それは、当時聴いた時の周囲の残響が大きく、音価が長く採られているという事もあり、あらためて採譜したという事もあり、バリエーションとして3つ目の小田急線踏切警報音とさせていただいているという訳です。

 いずれにせよ、最近増えつつある(様に思われる)この警報音の特徴は次の様に、

・A=440Hzの近傍
・中立三度

という所が特徴的であり、《中立三度》が意味する音程として特徴的な事は、《長三度より低く、短三度より高い》という所にある三度音程である訳です。まあ、厳密に取り扱えばブルーノートの三度であるブルー三度も本来はこうした中立音程であるという事が言われておりますが、実はそうした因果関係のみならず、単音程での転回還元位置に於ける自然六度(=第13次倍音)の鏡像音程でもあるのです。

mirrored8_13.png

 上掲の譜例は、中央ハ音を中心とした場合、高位にある850セント高い音を [13/8] という音程比とした場合、鏡像音程となる中央ハ音より850セント低位にある [8/13] という音程は互いに「Aセミフラット」と「Eセミフラット」という事となる訳です。

 自然六度および中立三度音程の脈絡は非常に興味深い物であり、それらの音程は互いに転回音程というばかりでなく、他の脈絡からも関連性が見られます。

 例えば自然六度を1オクターヴ高くさせて「1200+841=2041セント」の位置にあるものと仮定しましょう。2041セントという複音程を6等分すると1単位音程=340.16667セントが得られる事となり、これは平均律(24EDO)での7単位音程=350セントに近似します。

 加えて、純正完全五度≒702セントの2等分≒351セントという単位音程を導き、純正完全五度を複音程化として1オクターヴ高くさせた「1200+702=2102セント」の6等分は「350.3333セント」を導きますし、自然七度(969セント)を複音程化して1オクターヴ高くさせた「1200+969=2169セント」の6等分の単位音程が「361.5セント」を導く事に加え、単音程だけを取ってみても自然七度「969セント」の3等分が単位音程「323セント」を導く事からも、中立三度としての下限を見出せると同時に、中立三度の近傍という脈絡は多くの音程からの関連性がある事が判り事でしょう。

 ジャズ/ポピュラー音楽に於て私が【自然六度/中立三度】の実例を如実に知る事となった2つの曲があるのですが、最初のそれがマイク・マイニエリの曲「I'm Sorry」に参加するマイケル・ブレッカーによるメロディーのアンブシュアのそれが最初でした。




 次に、YMOのアルバム『BGM』収録の「1000 Knives」のシンセ・ソロで用いられる坂本龍一の自然六度が同様のアプローチでありました。




 もう、この《A♮とA♭との中間》の音は私なんかよりも、YMOのコアなファンであるならば、それを微分音と実感しておらずとも、その微妙な音の違いをあらためてお判りいただけるのではないかと信じて已まないのでありますが、これですらもアナログ・シンセサイザーが逃れる事のできないチューニングの揺れという偶発的な事象として扱いたい愚か者が居るのですから、嘆息頻りであります。

 これら2曲が共通するアプローチはマイケル・ブレッカーのプレイの方が純正音程に身を委ねた様な音となっており、坂本龍一のアプローチは四分音に寄せたアプローチを採っています。両者共に共通するアプローチというのは《ブルー三度の脈絡が中立三度である事は当然の事として、その鏡像音程となる自然六度の脈絡をも用いる》という所にあります。

 マイケル・ブレッカーのそれは、[des] より18セント低い所から [c] より16セント高い所へポルタメントする様にアンブシュアで奏している訳ですが(これら2音の相対的な音程は64セントとなり、それは1単位三分音に近しい)、アリスタ・オールスターズの演奏として知られるライヴアルバム『Blue Montreux』で奏される「I'm Sorry」でのマイケル・ブレッカーのアンブシュアの方が際立ってピッチが好いので、より一層四分音に近しいアプローチがお判りいただけるかと思います。この埋め込み当該箇所でのプレイは [des] より四分音低い [c] より50セント高い音へポルタメントを採ったアンブシュアで奏されている事が非常に能く判る好例であると言えるでしょう。




自然六度というのは単音程に還元転回すれば [8:13] であるのですが、これは黄金分割(黄金比)≒1.618にも近似する因果関係を持ちます。音程比 [5:8] もざっくりとしてはおりますが、こちらも黄金比の近傍を採ります。斯く為て、坂本龍一がアルバム『B-2 UNIT』収録「participation mystique」の曲名の意味《神秘的融即》=《神秘的な関与》という風に、中全音律の音脈およびディエシスとの因果関係をも誘因となる様に31EDOを用いたそれを《神秘的な関与》と位置付けている事は明白であり、そうした神秘的な関与は自然六度から得られる黄金比にも投影する事ができるという事があらためて判るのであります。

現今社会では、1単位音程を833セントというオクターヴ回帰をしない直線平均律法(=linear temperament)で生ずる螺旋音律という 'cents equal temperament' (CET)のそれを単音程に転回還元した「833cents Scale」というのも存在しますが、こうした音階はガブリエル・パレヨンの論究などが参考になるので、興味のある方は調べてみると良いでしょう。


 これには一般的なブルーノート使用(=ブルー七度・五度・三度)のアプローチから更に次の段階へと飛び越えたアプローチであり、パーシケッティやネオ・リーマン理論の応用にも踏み込んでいる物です。

 無論、坂本龍一の微分音へのアプローチはそれだけでは済まされる事はなく多用されており、YMOの同アルバムでは本曲のみならず「Camouflage」のBパターンで31等分平均律(31EDO)を聴く事ができたりもしますが、これだけ明示的な四分音は、坂本龍一のアルバム『B-2 UNIT』収録の「iconic storage」でのイントロに現れるのが顕著でありましょうが、音を採ればこそそれがすぐに四分音だという事は確実に判るにも拘らず、一部の素養のない者はアナログ・シンセサイザーのチューニングの揺れとして片付けたいのか、微分音のそれを偶発的な物として扱いたいものが一定数居る様で、彼等が長年気付いて来れなかったその悪い耳を自認したくはないのでしょう。

 そうした連中の保身の為に、坂本龍一本人が永らく微分音の使用を明るみにして来なかった事を好い事にして微分音が偶発的だと強弁するのは観察していて面白い位です。総じて半音階に落とし込んで坂本龍一のバックボーンのそれと全く無関係の音楽理論に落とし込む輩が居たり、愚かな連中の海は果てしなく広い事をあらためて思い知らされると同時に、そんな連中の保身の為に犠牲になってしまう新たな世代が強要されてしまう事になりかねない屈伏には目を覆いたくなってしまいます。

 きちんと調べさえすれば、大掛かりな手順など必要とせずに坂本龍一等の微分音使用は容易に確認する事が出来ますので、興味のある方は私に騙されたと思って確認してみると好いでしょう。


 扨て、今回の小田急線踏切警報音も明確な50セント(=四分音)の単位音程ではなく、近傍に位置する微分音となる訳でありますが、抑も四分音というサイズはクリストファー・シンプソンが17世紀になって語られる事で、その後の音律体系の醸成に伴い不等分音律から等分平均律の時代を迎える事に伴い《均齊》社会が注目される事で強化されて注目されたもので、旧くから実際に注目されて来た微分音(微小音程)というのは《ディエシス》という [128/125] という音程でありました。

 マルケット・ダ・パドヴァ(1274年生 ※Wikipediaでは活躍期が掲載)は、ディエシスは全音を5分割する物として(あくまで等分割ではない)の微小音程=ディエシスを挙げておりました。そうして《3つのディエシス=全音階的半音》《4つのディエシス=半音階的半音》としても理論体系が構築されていた訳なのであります。そうした背景からディエシスは古くから注目されていた古典の音程であったのですが、それに対して五分音変化記号を最初に扱ったのがマルケット・カーラなのであります。

 古典音律は《三度を重視する/五度を重視する》という風にしてどちらかを慮った歪(いびつ)なサイズでの音律体系が主流だったのであり、四分音自体も24EDOの単位音程の様なキッカリ50セントという物ではなく、四分音を標榜しつつの他の微小音程に寄り付くという事は多々生じていた訳で、それが時には六分音、自然七度、五分音、三分音だったという訳です。 

 音階というのは歴史的に紐解いてみると今でこそ等分平均律が主流ですので、半音音程はオクターヴの内どの1つを採っても等しいサイズですし、全音音程とて同様です。然し乍ら幾ら等分平均律が主流とは雖も決して6つの全音音程で全音階音組織が構成されているのではなく、全音階音組織というのは《5つの全音音程+2つの全音階的半音》で構成されております。

 それゆえに、全音音程を5等分するディエシスの存在をあらためて追究すると共に、全音階音組織は5つの全音音程がある訳ですから、

・全音を5等分
・5つの全音

という事はこれだけで、25個のディエシスがある事となり、そこに加えて残りは《2つの全音階的半音》という存在があるのですから、

・3つのディエシスが全音階的半音
・全音階的音組織は [全音階的半音×2]

という事で、先述の25個のディエシスに加えて6個のディエシスが加わる事となります。

 即ち、《五分音》とは全音を5等分しているので恰も「30EDO」の様に思われるかもしれません(半オクターヴを生ずる五分音体系としての30EDOは存在する)が、史実的に五分音は《31EDO》=31個のディエシスを表している訳です。


 31EDOの単位音程は約38.7097セントというサイズになりますが、奇しくもこのサイズの前後には、音律の歴史から極めて重要な微小音程が多く存在しています。それらに、音楽的に重要な神的な力の源泉とばかりに先蹤拝戴し、現今社会への《異化》が試みられる様になる訳です。ファーニホウが「Unity Capsule」にて五分音を用いたのも先蹤拝戴に伴う異化なのであり、マルケット・カーラが五分音に注目するのもヴィチェンティーノやレメ・ロッシ等が着目するのも古典(ギリシャ時代)への先蹤拝戴だったのであり、それを現代音楽でも脈々と継承しているという訳であります。

 こうした音楽の歴史的背景を知る事もなく、現今社会でのDAWを取扱う好事家達は何不自由なく微分音を用いたりする事が可能なのでありますが、ただ闇雲に微分音に着目するだけではなく、そのサイズが古典の微分音由来であった事から端を発している、という事はあらためて念頭に置いていて欲しい背景なのであります。

 また、そこであらためて着目されるディエシスという微小音程の存在と、そのサイズが1単位五分音の近傍として種々の微小音程が存在するという事も音楽に於て重要な事であり、小田急線の踏切警報音としてそうした体系に寄り添っているという事をあらためて知って欲しい側面なのであります。

 今回取り上げる小田急線踏切警報音がディエシスまたはその近傍となる関係性がどう見られるのか!? という事を確認する事にしましょう。下記の譜例動画を参照。




 譜例動画での先行小節が「A=440Hz」ですので、これを基準に2つの音高を確認するとしますが、低い方の音は [a] より42セント高い音であり、高い方の音が [cis] より1.4セント高い音となります。通常ならばセント数の増減値は整数なのでありますが、今回はより精度を高めて表しております。

 ディエシス近傍にある微小音程をざっくり列挙すると次の様になるのですが、

・24EDO equalクォータートーン─50セント
・セプティマル・コンマ(36/35)─48.770セント
・大ディエシス(※24EDO)─46.920セント
・大ディエシス(※53EDO)─45.283セント
・マシュー・スーパーディエシス(6561/6400)─43.013セント
・ディエシス(128/125)─41.059セント
・undecimalグレイヴ(45/44)─38.906セント
・31EDOスーパーオクターヴ─38.7097セント
・inferiorクォータートーン、trivigesimal comma(46/45)─38.051セント
・36EDOスーパーオクターヴ─33.333セント
・小ディエシス(3125/3072)─29.614セント


※スーパーオクターヴ(superoctave)とは、凡ゆる音律に於て《基音より1単位音程だけ高い音》を称する時に通用する呼称

という風になるので、今回取り上げた小田急線踏切警報音の高い方の音は《スキスマを7等分した5単位音程》となり、低い方の音は《ディエシス分だけ高い音》という事で、[a] 音よりディエシス高めた音にほぼ近似する音である事が判ります。余談ではありますが、YMOのアルバム『BGM』収録「Camouflage」のイントロにてデチューンのかかったシンセ・ブラス音は、EventideのH-910をREV LINKにして「±43.013セント」近傍となる様にしてデチューンを掛けています。このデチューンの大きさが《マシュー・スーパーディエシス》であり、高橋幸宏のアルバム『ニウロマンティック』収録の「Glass」でのシンセのメイン・リフで使われるシンセ・パッドのそれもマシュー・スーパーディエシス付近でデチューンが採られています。

 扨て、スキスマとはご存知の通り、ピタゴラス・コンマとシントニック・コンマとの差となる微小音程です。これを7等分した5単位音程がおおよそ1.4セントとなるのですが、チューニングが甘い人はスキスマ以内に収まるそれを看過する傾向があり、西洋音楽の世界では有り得ない位のズレであります。

 また、スキスマという微小音程は、平均律完全五度と純正完全五度とで生ずる微小音程にも極めて近似するのですが、こちらは厳密にはGradという呼称をかのヴェルクマイスターが命名しており、次のインコグニートの楽曲「Talkin' Loud」の冒頭でのブレイクでの「♭Ⅱ7」でのランディ・ホープ・テイラーが、ベースの3弦と4弦とをハーモニクスで合わせた事で1gradほどズレおり、それに加えてE弦押弦時の僅かな「ベンド」も加わり、バックと比較して17.5セント程上擦っているのがお判りになりますが、こうした音は西洋音楽でのチューニングでは有り得ない程に「大きな」ズレであります。白玉のベース音が4拍5連程度のスピードでうなりを生じているのがお判りいただけるかと思います。




 恐らく、G弦2フレットの [a] 音を基準音 [a] に合わせ、G弦7フレット上のハーモニクス(=3倍音)をD弦5フレット(4倍音)を合わせ(☜この時点で1grad ≒ 2セント高くなる)、D弦7フレット(3倍音)をA弦5フレット(4倍音)に合わせ(☜この時点で2grad ≒ 4セント高くなる)、A弦7フレット(3倍音)をE弦5フレット(4倍音)に合わせ(☜この時点で3grad ≒ 6セント高くなる)、E弦は6セント程高くなり、そのE弦を押弦時に更に11セント程上擦ってベンドさせているという状況が考えられるという訳です。

 1.4セントというスキスマよりも小さいサイズの音程は、A=440Hzでの楽音では普通に溶け込んでしまいそうな音かもしれません。しかしこの浮き立つ《デチューン》の様な効果こそ、小田急が狙っている周波数設定なのであろうと私は今回あらためて推測するという訳です。

 以前にも私が鉄道会社各社の踏切警報音を採譜した事がありましたが、それらの特徴は概ね、凡ゆる楽音に埋没する事がない様に工夫が施されている様な周波数設定だった訳ですが、小田急の電子音タイプのそれは、楽音に溶け込み乍らも僅かに浮き立つ事を意図しているのであろうという音なのであります。

 スキスマよりも狭い音ではないもう1つの音も、ディエシスに相当する音なので、半音の半分以下であり、デチューンとしては大きいもののデチューンとして使えない訳ではない。奇しくもYMOのメンバーが使い倒して来たハーモナイザーの効果と同程度の音程幅になっている事を勘案すると《エフェクティヴ》である訳ですね。畢竟、効果的である、と。

 遉に、巷間広く普く彌漫している楽曲とて微分音をふんだんに使用している物はそうそうありませんので、中立音程を駆使する事での浮き立つデチューン効果に加えて、虚ろで卒倒感があるような存在感を示す微分音が注意喚起となる事を狙った設定であるのでしょう。

 加えて、住宅密集地ではそうした虚ろで仄かに溶け込む様な音の方が苦情が少ないのかもしれません。世知辛い現今社会ではお寺の梵鐘ですら騒音被害を訴える怪しからん輩が跋扈する様な時代であり、踏切警報音とて騒音被害を訴える輩は相当数居るのではなかろうかと思います。そうした所への配慮も踏まえての中立音程の採用でもあるのでしょう。

 そういう訳で、小田急線踏切警報音の譜例動画をYouTubeにアップした事であらためて解説を述べた訳でありますが、中立音程(中立三度)音程の採用とディエシスを用いている微分音のそれが五分音との因果関係を持っているという事で、五分音=31EDOの変化記号体系を用いるという事で、今回はHEWMノーテーションによるHEJI2フォントを使った31EDOの変化記号を採用したという訳です。

 とはいえ、HEWMノーテーションの31EDOだけを使ったのではなく、HEWMの他の記譜法も用いているので、例えばDoricoで31EDOを設定して同様の変化記号で鳴らしても、今回の譜例動画と同様の音が再生される訳ではないので、その辺りはご容赦願いたいと思います。

 
 扨て、小数点以下のセント数をDAWで編集する時、今回私が特に慫慂してお勧めしたいのが、Logic Proに含まれるAppleインストゥルメント「Apple AU Sampler」であります。

Apple_AU_Sampler.png

 このインストゥルメント・プラグインの編集パラメータで画面右上部にある緑色の部分に含まれる「チューニング」のセント量の増減値は、小数点第2位まで有効なので、非常に細かい精度で再生が可能となるのです。

 特に微分音を用いる状況では、整数の編集が実に粗い事を実感させる程であります。とりわけ微分音というのはそれだけデリケートでもあり、人間の聴覚の鋭敏さをあらためて深く思い知らされる訳でもあるのですが、このインストゥルメント音源を用いる事で微分音は更に細かい精度で追求する事が可能となるので、興味のある方は是非ともお試し下さい。